冬の朝

なにか不思議な声が聞こえると思ったら比叡山からの托鉢であった。 雲母坂から来た彼らが坂道を下るのが見える。 「おー、おー」と呼ばわりながら、黒い衣の僧が数人行き過ぎてゆく。角の地蔵を過ぎて早くも見えなくなった。 角の地蔵には毎朝線香があげられている。熱心なおばあさんが祈りをささげている。花もいつも新しい。 私は部屋に戻ると洗顔のために蛇口をひねる。水が凍結せぬように、毎夜少しは栓を開けている。傍らのオリーブオイルが黄色く凝固している。今朝も随分冷え込んだ。 陽が昇り、町は少しずつ動き出していく。